老年看護学を専門とし、看護と社会福祉という二つの専門領域をバックグラウンドに持つ中で、約30年にわたり多職種連携の研究に取り組んできた立場からの解説です。
「多職種連携」という言葉を、あちこちで耳にするようになりました。
この意味を定義するのは意外と難しいのですが、おおよそ次のようなものです。
「質の高いケアを提供するために、異なった専門的背景をもつ専門職が、共有した目標に向けて共に働くこと」
……これだけ聞いても実感がともなわないですよね。
多職種連携の近年の動向を知ると、イメージがわいてくると思います。
「多職種連携」の近年の動向
WHO(世界保健機関)では、世界に先駆けて多職種連携の必要性を示し、1980~90年代にかけて、多職種連携や多職種連携教育に関する重要な報告書を提示しました。
しかし、多職種連携に関する日本の関心は低く、あまり注目されることはありませんでした。
一方でこの頃、アメリカやイギリスでは、人口の高齢化に伴うさまざまな健康・生活課題への対応と、保健医療・社会福祉の高騰への対応策として多職種連携が再注目され、政策あるいは研究として積極的に推進されていました。(両国での歴史的変遷については下記の文献1をご参照ください)
日本でも第二次世界大戦後、医師と看護職に加えて、リハビリテーション専門職などの新しい医療職や、医療ソーシャルワーカーなどの社会福祉職が台頭しましたが、医師以外の専門職が「医師と同等の立場で連携する」こと自体、なかなか受け入れられる状況ではありませんでした。
私が多職種連携を始めた当初も、医師だけでなく他の専門職においても連携の必要性への理解が乏しかったのです。
状況が劇的に変わってきたのは、つい最近のことと言ってよいでしょう。
その背景には、欧米先進諸国と同様に、高齢化の波による人口構造や健康問題の変化があります。
中でも超高齢社会に突入した日本では、要介護高齢者の介護課題、地域・在宅医療への取り組み、医療費削減といった課題が生じる中で、多職種連携は必要不可欠なものです。
病院から地域・在宅への多職種による退院支援に診療報酬が加算されるようになり、多職種連携自体が財源化されたことは記憶に新しいところです。
WHOでは、このような世界的な動向をふまえて、2010年に“Framework for action on interprofessional education and collaborative practice:多職種連携教育と連携実践のための行動枠組み”(文献2)を発表し、世界的に多職種連携を推進することを推奨しています。
多職種連携については、これまで日本だけでなく国際的にさまざまな議論が行なわれてきました。しかし、専門職協働や協同、チーム医療、チームワーク、チームアプローチなど、様々な用語が十分に整理されないまま用いられている状況があります。
このような現状の中で、最近は多職種連携をInterprofessional Work=IPW、多職種連携教育はInterprofessional Education=IPEと呼ぶことが多くなっています。
日本の大学でも、多職種連携教育というよりもIPEの呼称が馴染んできおり、保健医療福祉系の大学を中心にIPEへの取り組みが進んでいます。
専門職だけに限らない
冒頭で多職種連携を「異なった専門的背景をもつ専門職が、共有した目標に向けて共に働くこと」と定義しました。
実は連携は「専門職」には限らない、というのが最近の流れです。
もともとは保健医療の専門職による連携に始まりましたが、WHOの報告書(2010)では、事務管理者、その他の専門職、ボランティアなどの支援者、そして地域コミュニティのリーダーも、連携のメンバーです。
日本の高齢者ケアの現場で考えるなら、介護支援専門員(ケアマネジャー)、医師、看護職、リハビリテーション専門職、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターや社会福祉機関の職員、介護保険施設の職員に加えて、民生委員、NPO法人の職員、ボランティア団体のメンバー、自治会などの地域支援者もあげられるでしょう。
地域包括ケア推進の鍵となる多職種連携
日本の少子高齢化のスピードは止まらず、経済状況の停滞とも相まって、高齢者へのケアは従来の介護保険制度のみでは対応できなくなってきました。
新たな仕組みとして2012年の介護保険法改正や2014年の医療介護総合確保推進法制定によって、地域包括ケア(住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的な提供)が推進されることになりました。
これら一連の改革の中で常に求められてきたのは、実際のサービス提供における多職種連携です。
介護支援専門員の実務研修実施要綱では、その冒頭で「地域包括ケアシステムの中で医療との連携をはじめとする多職種協働を実践できる介護支援専門員の養成を図る」ことが目的と定めており、多職種連携がまさに中心のスキルと位置付けられていることがわかります。
また、主任介護支援専門員の研修では、「医療との連携及び多職種協働の実現」において、講義と演習が課されました。
さらに「医療との連携事例」、「社会資源の活用に向けた関係機関との連携事例」研修が新設され、介護支援専門員の専門性という土台の上に、多職種連携スキルの教育・トレーニングが必要となっています。
このように、地域包括ケアを推進していくためには、高齢者の健康・生活を支えるための医療と介護の連携が欠かせず、そこでは介護支援専門員(ケアマネジャー)が中心となり、その他の職種も一丸となって多職種連携を行なっていくことが求められているのです。
このたび介護支援専門員の研修内容に多職種連携の講義・演習が明確に位置づけられたことは非常に画期的であり、介護支援専門員の多職種連携のスキルアップが、利用者のニーズに応じた地域包括ケア推進の鍵になることは間違いないでしょう。
文献
1.松岡千代(2013)多職種連携の新時代に向けて:実践・研究・教育の課題と展望、リハビリテーション連携科学、14(2)、181-194.
2.WHO(2010) Framework for action on interprofessional education and collaborative practice. http://www.who.int/hrh/resources/framework_action/en/
さて、ここまでは「多職種連携」というものについて解説してきました。
次の項目でいよいよ、多職種連携にはどのようなスキルが必要なのか、そのためにどんな教育やトレーニングが可能なのかを、私自身の実感とともに述べたいと思います。
多職種連携教育(IPE)とは
松岡千代です。
皆さんもご存じのように「言うは易く行なうは難し」なのが多職種連携。
なぜ難しいのか?
うまくいくための要件や、必要なスキル(技能)は何か?
スキルトレーニングや学生への多職種連携教育(Interprofessional Education=IPE)の方法とは?
……かつて博士論文を書くにあたってあれこれ模索する中で、ハワード・カツヨ博士と出会い、TCプログラムを知りました。このプログラムは多職種連携のスキルトレーニングに使える! まさにこれだ! と確信したのです。
TCプログラムの話に入る前に、多職種の連携・協調に必要なスキルについて少し説明しておきましょう。
多職種連携に求められるコンピテンシー
多職種連携に必要なコンピテンシー(能力)は、次のような領域があるとされています(文献3)。
他のコンピテンシーを支持する基盤となる2つのコンピテンシー
・クライエント・家族・コミュニティを中心としたケア
・職種間のコミュニケーション
多職種連携を目標として相互に統合される4つのコンピテンシー
・各職種の役割の明確化
・チーム機能の理解
・相互に連携したリーダーシップ
・職種間に生じた葛藤解決
つまり、多職種連携のためには、専門職としての能力(それぞれの専門性)以外に、基本的なコミュニケーション能力と、専門性や個性が異なる相手に有効にアプローチする能力、葛藤を解決する能力、さらにケース検討会議などをファシリテートする能力や連携のリーダーシップをとる能力も必要とされるのです。
このように多層的に構成された多職種連携のスキルは、自然に身につくものではなく、学習とトレーニングが必要であることが世界的に認められています。
2つの葛藤が生じる
多職種連携が難しいのは、そこにしばしば二重のすれ違い(葛藤)が立ちはだかるからです。一つは職種の違い、もう一つが個人の気質による違いです。
専門職間の葛藤
職種間の地位や力の格差は、多職種連携の障壁となります。さらに知識や価値観など専門職文化の差異も、葛藤を生じる要因となります。加えて、多職種連携の方法や葛藤解決についての知識やスキルの不足も課題です。
個性の違い
職種や立場とは別に、一人ひとりの気質の違いがあります。職種の違いをどう理解し、どのように葛藤を解決するのかという方法にも、個性の違いが現われます。
多職種連携の葛藤は、しばしば職種間の葛藤として取り上げられるのですが、実は職種の違い以前に個性の違いに対応できず、多職種連携が上手くいかないことが多いのではないでしょうか。
人は一人ひとり異なっていて、個性をもっている……ということは誰もが「頭」で知っています。けれども実際のコミュニケーションで、それがどれぐらい意識されているでしょうか。
人はどうしても、自分の範疇の中で物事を解釈して行動し、他の人も同じように考え行動するものと考えがちなのです。
ところが連携においては、自他の違いを受け入れ、異なる価値観を認め合いながら合意を形成していくコミュニケーションが求められます。
どうしたら、そのトレーニングができるのか……
私が出会ったのが「自分を知る」「他人を知る」「違いを受け入れる」を三本柱とするTCプログラムだったのです。
TCプログラムと多職種連携
TCプログラムではまず、4つの気質が自分の中でどんなふうに組み合わさっているかを見ていきます(この気質を誰でもわかる共通言語とするため、4色のカラーに象徴させています)。
第一カラーと第二カラーは、自己の言動に強く影響を与え、そのカラーの特徴は個人の強みとなります。
一方で、第四カラーは弱みやストレス源になることが多く、またそのカラーをもつ他者とは、対立関係や葛藤関係に陥りやすくなります。
しかし、自己の第四カラーを知って、弱みを認めることは、そのカラーを強く持っている他者の価値や強みを認めることにつながります。つまり多職種連携の目的のために、お互いに力を活かしあえるようになるのです。
多職種連携に求められるスキルの核心が、座学ではなく体験型のプログラムによって数時間で実感でき、かつお互いを理解するための「共通言語」が得られることが、TCの利点です。
もう一度、多職種連携に欠かせない能力を階層的にまとめてみると、以下のようになります(文献4)。
・第一層 基本的な対人関係・援助能力
・第二層 専門職としての専門性・能力
・第三層 多職種連携の能力
TCプログラムは、第一層だけでなく第三層のスキルトレーニングにも有効です。
これまで私は、各種の学術集会や研究会、専門職職能団体での研修、学生への多職種連携教育等において、TCを積極的に紹介し実施しています。
違いを活かす連携教育のために
日本人は対立や葛藤が苦手です。
日本の文化は、違いを個性として認めることが不得意です。
違いが表面化しそうになると、言いたいことを抑えたり、ごまかしたり……。
あるいは空気の読めない人は仲間はずれにされたり、声の大きい人・社会的に力をもっている人の意見が勝ったり……。
こうした個性の違いや専門職の違いによって多職種連携が上手くいかなくなると、果たして誰が不利益を被るのでしょうか。
利用者とその家族です。
個人の違い、専門職の違いを活かして相互に連携し、利用者とその家族の利益が守られること――これが私の変わらないテーマであり、そのためにぜひTCプログラムを広めたいと思っています。
多職種連携に悩みを持つ皆さん、そして多職種連携教育(IPE)や現任者の研修企画に取り組む方々、TCプログラムを試してみませんか?
文献
3.Canadian Interprofessional Health Collaborative (CIHC)(2010) A National Interprofessional Competency. http://www.cihc.ca/resources/publications
4.松岡千代(2011) チームアプローチに求められるコミュニケーションスキル, 認知症ケア事例ジャーナル, 3(4), 401-408.